突撃!目利きインタビュー!!

今年のシブカル祭。で全力女子たちを応援してくれる
“目利き”の皆さんにスペシャルインタビュー!
あんな人からこんな人まで、目利きから読み解くシブカル祭。2013!!!

第1回 岩渕貞哉さん/『美術手帖』編集長

13 09.23 UP

プロフィール

1975年生まれ。1999年慶応義塾大学経済学部卒業。2002年美術出版社『美術手帖』編集部に入社。2007年に同誌副編集長、2008年に編集長に就任。2012年7月より同社編集部部長を兼任。書籍・別冊に『大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ ガイドブック』(2006)、『瀬戸内国際芸術祭ガイドブック』(2010)、『村上隆完全読本1992-2012 美術手帖全記録』(2012)など。

Q1
岩渕さんには第2回シブカル祭。から、「美術手帖presentsシブカル杯。」というかたちで参加していただいてます。岩渕さんから見てシブカル祭。の面白さはどんなところだと思いますか?
A1
第1回の時は、渋谷パルコでやっているということもあって、ファッションやカルチャーのイベントかなと思っていました。
ただ、第2回で実際に関わってみると、自分が推薦させてもらった人たちも含め、アーティストがたくさん参加していました。美術ってギャラリーのように空間がしっかり作りこまれたところで見せるものなので、百貨店などの商業空間でするのは、基本的には難しいと思うんです。僕は、やっぱり美術はホワイトキューブで作品と向き合いたいという思いもあります。でも、シブカル祭。のクリエイターたちはまったくそういったジャンルの境界を意識していなくて、ジャンルを超えた交流もたくさんある。その開放感が見ていて気持ちよかったです。
今って、渋谷系とか秋葉原系と呼ばれるような、秋葉原はオタクカルチャー、渋谷はファッションや音楽カルチャーと分けられず、例えば、でんぱ組inc.のように、秋葉原から登場したアイドルがファッションど真ん中のクリエイターと一緒にやっていたり、逆にファッションの人もオタクカルチャーを積極的に取り入れていたりする。
そういった、エリアや文化的な嗜好がどんどんミックスされるという、特に日本の若い女の子に顕著な新しい文化が、シブカル祭。によって誰の目にもはっきり見えるようにフレームアップされた。これは、シブカル祭。の画期的な達成ではないでしょうか。
Q2
今回は「シブカル展atパルコミュージアム」の“目利き”としても参加していただきました。選定した3人クリエイターについて教えてください。
A2
今回、水野しずさん、宍戸未林さん、ni_kaさんという3人に声を掛けさせていただきました。が、実は彼女たちに対して自分は他者だという感じがすごくあるんです。だから本当はよくわからない(笑)。
水野さんは、細い線でびっしり描き込んだ繊細なドローイング作品と、もう一方で日常の不思議な体験を描いた不条理漫画という、対照的な二面性に興味を引かれました。そして、すごくたくさん作ってるんです。でも、制作しているものと目指しているアーティスト像が僕のなかでうまく噛み合ず、この制作への衝動がどこに着地するのかな? という不安のような期待のような思いもあったり。シブカル祭。に参加して、着地する地点が見えればいいなと思っています。


水野しず《毎晩くる》2012

宍戸さんは、ファッション系のお店の壁にドローイングを施すなど、デザインやイラストの分野のクリエイターとも言えます。色彩感覚と思い切りの良い線が魅力的です。ですが、彼女もプロのイラストレーターとしてクライアントからの発注に応えて、それに適うように描くというやり方ではなく、自分の描きたいものを描いていきたいのかなという印象を持っていました。アーティストなのか、イラストレーターなのか、自分でも良くわかっていない感じが、可能性のようにも思い、シブカル祭。で見てみたいなと。


宍戸未林《とりの目》2013

ni_kaさんは、今回唯一会ったことがなく、昨年ツイッターで「とんでもないブログがある」と聞いて見に行って吃驚しました。彼女は、ブログ上で絵文字やブログパーツを駆使した詩を発表しているのですが、ビジュアルアートとして見ても新しい。21世紀のコンクリート・ポエトリー(視覚詩)とさえ言えるかも知れません。しかも、詩の世界の人からは無視をされていて、声が掛かるのはいつもアートの人からというのも、逆に彼女のポテンシャルを象徴しているようで面白いですよね。


ni_ka《詩 2011年モニタ詩へ浮遊》2011: A Space Odyssey/2011年
「新文学04号表紙」/森とコラボレーション
Q3
キュレーションのポイントを教えてください。
A3
シブカル祭。って、表現へのありあまる衝動をもって制作をしていながら、でも、周りから見るとどこのカテゴリーで活動しているのかわからず、しかも自分でもわかっていないという、本当の意味で「アート」をしているけれど、「アート界」には属していないというアーティストにとって、すごくいい場所だなと思ったんです。
シブカル祭。は、祝祭的なイベントであることもあって、なんでもありの場所で、さっき言ったような名付けられない表現者が集合している。その中で彼女たちの持っている可能性が見えるといいなと期待しています。
Q4
では、シブカル祭。において、アートの可能性をどのように考えていますか?
A4
現代美術もそうだと思うんですけど、これまで美術とされてきたものを踏襲しても新しいムーブメントにはなり得ないと思うんです。新しい表現って、これまで見たことのないものなので、よくわからなかったり、拒否反応を示す人がいたり、一方で熱狂的に好きな人がいたりする。ということは、今の時点では美術かどうかわからないものにしか、新しい美術になる可能性がない。これは美術なのか? この人はアーティストなのか? というくらい新しい言葉や見せ方を持っている人が、新しい表現になっていくんだと考えています。
その意味では、シブカル祭。の混沌とした闇鍋のような状況は、なにか新しい表現が生まれてくる必要条件を持っているのだと思います。
Q5
女子クリエイターならではの特徴はどんなところだと思いますか?
A5
誤解を生みやすいところなので、気をつけないといけないのですが、女性のアーティストのなかには、自分の嗜好とか欲望を延長していった上に自分の作品があるという印象を受けます。シブカル祭。に出ているクリエイターは、可愛く見せたいとか、可愛いものに囲まれたいという欲望があり、自分の周囲の環境や空間をそういったもので満たしたいという方が多いように思います。その上で、“盛る”と言うように、どんどん重ねていく、空間を埋めていくところが特徴的ですね。
例えば、昨年の愛☆まどんなやマコ・プリンシパルがショーウィンドウでやっていたことは、とても象徴的だと思います。
Q6
岩渕さんの立場から、女子クリエイターへのアドバイスをお願いします!
A6
アドバイスは、ないかな……(笑)。というのも、彼女たちは楽しく制作して生活していく方法をわかっていると思うんです。なので、こうやったほうがアーティストとしてステップになるとか、アドバイスをするのがいいのかどうかよくわからない。
でももし、アートの世界でアーティストになることに関心があるのであれば、その世界の発表や評価のシステムがあるので、それを勉強してほしいです。コンテンポラリー・アートは世界的な価値観のなかで動いていて、オープンなところがいいと思いますね。それと成功したときの規模が大きいのも魅力だと思います(笑)。あとは美術館に典型的なように、人類の美の価値を歴史的にどう残していくのかということが根本にあるので、時間に対する射程が長いですね。
シブカル祭。は、お祭りなので瞬間的な爆発力があって、瞬間で消えていく潔さや開放感が最大の魅力だと思うのですが、その隣にはアートという世界があるので、興味のある人はその世界でもチャレンジしてもらいたいと思います。